パニグレを始めて半年、SFってやっぱ最強な話
パニグレにハマって半年が経った。何だこのゲーム、おもろいやん……と熱が出てから半年間まったく熱が下がるどころか加熱していってるのでざっくりと感想とか面白かったポイントとかを語る。
そもそもの出会いは友人からの勧め。
自分から友人には無期迷途(強くて美しいお姉さんがいっぱい出てきて世界観も重たい最高ゲームなので全人類やってください)を勧めた代わりに、向こうからパニグレを布教されてやってみた。
そしたらストーリーがほんとに良くて……
キャラクターも良くて……
世界観がとことん残酷で……
そのなかで輝く人類の理性と文化性……
これぜったいSFオタクが好きなやつ……!
気がついたらパニグレが3年かけて展開してきたストーリーを3週間で一気読みし、冷枷イベントあたりで最新に追いついて、そのあとストーリー全体を3周ほど読み直して、weibo出情報収集したりtaobaoでグッズ買ったり、そんくらいにはハマった。
完全新規の人間の感想とか、ご参考になれば幸い。
なお、PRとかでは一切ない。個人の趣味で書いています。
パニシング:グレイレイヴン
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インターステラーを見たら感情が破壊された2020
あらすじすら知らんインターステラー初見いってくる
— クレープ飼いたい (@1___8) September 13, 2020
人生を変えるチケットだった pic.twitter.com/PNqsLjEHE2
— クレープ飼いたい (@1___8) September 13, 2020
通信は基本的に一方通行だ本当に自分の心が相手に届いたかどうかは誰もうかがいしれぬ(中略)しかしそれで仕方ない通信は通じたと信じること 伝達は伝えたら達するのだそれ以上を望んではいけない……理解を望んではいけない……!
このモノローグの前後では、人間はみな孤独を抱えているが他の人間の存在を感じることで希望を見出せる、といったようなことが描かれている。この状況がまさにインターステラーの内容に刺さる……!
曽根崎音ゲー心中
beatmaniaが無くなった世界で私は生きていけるのだろうか。
私は年を取った。学生時代にハマったゲーム、そして今もプレーし続けているゲーム、beatmaniaIIDXのプレー期間が人生の半分に達しようとしている。良くない言葉を敢えて使えば典型的な「老害音ゲーマー」だ。昔のUIは良かった、過去作のこんなジャンルが収録されないのは寂しい、長押しなんぞけしからん、等と音ゲーに対する妄言はすべて過去との比較になって出てくる。それもそうだ。明確に記憶に残っている数年来の思い出全部が音ゲーと紐づいていて、逆に言えばそれ以外が無い。過去の足跡は筐体の上にしか残っていない。
私の年表にも短いながらに音ゲーとの記録がある。田舎から初めて東京へ出てきた時、今は無い池袋のゲーセンで、田舎じゃツチノコよりも珍獣だったee'MALLが稼働していて、とても感動したのを覚えている。大学受験の時は宿泊したホテルの最寄ゲーセンで遊んだし、社会人デビューとSP十段デビューはほぼ同時期だった。先日のロケテストだって、前日までに残業を重ねて無理やり時間を作って参加してきた。あの時の案件のことは、手元にあるロケテストの整理券とともに記憶に残り続けるだろう。記憶の年表には西暦の代わりにbeatmaniaのサブタイトルがずらっと並んでいる。あれはHAPPYSKYの時。あれはResort Anthemの時。キリストの誕生から数えた年月よりも、音ゲーと共に歩んだ年月こそ私にとっては確かな「有史」だ。
しかしbeatmaniaはゲームである。それも手元に残るゲームではない。アーケードで稼働するタイプのゲームだ。ゲーセンでの現役稼働が終了したらどうなってしまうのか、見当もつかない。もしサービスが終了したとして、その後オフライン環境で動くかどうかも分からない。メンテナンスには大量のパーツが必要で、そっちの生産の方が先に終了してしまうかもしれない。巷ではレトロな格ゲーやSTGを集めた小規模ゲーセンがTV番組で取り上げられたりしているが、果たして音ゲーがレトロなゲームとなった時、かつて音ゲーで育った人間が通える場所は残っているのだろうか? 私と音ゲーは、あと何年、一緒に歩いていけるんだろう?
最近は、音ゲーで育った人間が音ゲーを作る側に回った感動的なエピソードが沢山見られるようになった。HELL SCAPER -Last Escape Remix-のDJ TECHNORCH氏のコメントの衝撃は永久に忘れない(まだ読んでない人はここから読んでくれ。私なんぞの駄文を読んでいる場合ではない)。きっとコメントが公表されていなくても、それこそBEMANIシリーズに限らなくても、作る側に回った人間がたくさんいて、今の音ゲー世界を回している。いい時代になった。かれらはずっと音ゲーと関わり続けていくだろうし、音ゲーじゃなくても新しいものを作り出して、ゲーム史を太陽のように照らしていくんだろう。じゃあファンは、プレイヤーは、どこまで付いていける? プレイヤーは月だ。太陽の光があってこそ存在感を放つ。ゲームは当然遊ぶし、ロケテストも行くし、ファンアートを作るし、曲を聴くし、ファンの活動だって無意味なものは一つも無く、全て価値のある行動になっていると私は信じている。だけど、だけど。一次創作物が無ければ我々ファンはファンで在ることすらできないのだ。音ゲーがなくなったら、beatmaniaがなくなったら、手元に残るのは機能を失ったe-amusement pass一枚しかない(技術革新が続けば最終的にカードすらなくなるのかもしれない。それくらい未来まで音ゲーが残っていてほしい)。いっそ筐体を火葬して、骨壺に納めた残骸を抱えて生きていられたらいいのに。でも骨壷には鍵盤も皿もついていない。やっぱり私はゲーマーで、彼岸花を踏みしめて墓参りするよりもゲーセンへ通うほうが向いている。
音ゲーがなくなったら、beatmaniaのシリーズが終わったら、私は生きていけるんだろうか。ここまで来ると私がしているものは恋か呪いか分からない。未来成仏疑いなき恋の、手本となりにけり。いや、手本になるのか? 相愛ならともかくとして、ファンというのは永劫の片想いに生きるものだ。心中は決してできない。だからゲーセンへ行く。行くしかない。グッバイ現世、またゲーセンで会おう。
アルバムHADESの話をする
9/1-2、HARDCORE TANO*C Wが開催された。参加した音ゲーマーも多いと思う。私もそうだ。もう何日も経つのに未だにイベントの余韻が抜けない。こんなイベントは久しぶりだ。
私がHARDCORE TANO*Cのイベントに参加するのは、TANO*C STRIKE IS BACKを除くと(特殊なイベントだったし)、10周年イベント以来になる。雰囲気もずいぶん変わったんだろうと色々不安に思ったりしていたのだが、完全に杞憂に終わった。現地にいる人全員が楽しいオーラ皆伝。好きなものに全力でぶつかっていく人ばかりだった。楽しんでいる人たちと同じ場所にいるだけなのに、どうしてあんなに楽しくなるんだろう? 楽しすぎて久しぶりにオープンからクローズまで会場にいた。「気を付けて帰れ!」がこんなにエモく感じられる日が来るとは。感慨深い。
■
HADESについてはもう何も語ることはないと思っていたけど、色々と起こりすぎて積もる話もあるので、少しだけアルバムの感想とか書きたいと思う。
そもそもアルバムの告知、あれがずるい。見るだけで息も絶え絶えだった。風呂入ってる間に告知が来るし。マジ全裸。防御力ゼロ。しかも旅先。風呂上がりに湯気ホカホカな状態で友達に告知出たって言われて半裸でTwitter開いたら「赤いアイツがやって来た」って書いてある。告知サイトが赤い。ジャケットの人が赤い。腕が赤い。なんかめっちゃノックしてる。しかもTシャツも出るらしい。嘘でしょ?なんで? 更に追い打ちをかける抱き枕カバー。抱き枕カバー?嘘でしょ???なんで?????とりあえず抱き枕カバーの写真をスマホの壁紙にしてソワソワしながら夏コミ1日目を待った。
夏コミ1日目。アルバムがHADESが出た日。アナザーゴッドの日。リミックスまである。ジャケットは美女。Tシャツも出る。クッションカバーも出る。抱き枕カバーも出る。ショッパーも出る。出すぎ。出すぎだ。
人生で初めて始発夏コミをした。逆三角の屋根の下で開場の拍手をしたのも初めてだ。枕カバーはまあ仕方なかったけど、実物を見られただけでも感激だった。等身大?の腕さん*1は思ったより大きくて頼もしい。触り心地が良さそうな雰囲気だった。ショッパーは透明感があって夏らしさ満点。Tシャツからはちょっとだけ工場っぽい匂いがした。やりきった。ひと夏の思い出。楽しかった。
さて、そのアルバムHADES。全国民に聴いてほしい。本当は全国民に差し入れてあげたい。2018年8月1日時点で日本の総人口は1億2649万人、今年の夏コミ1日目来場者数は約16万人、1日目来場者が全員HADESを買ったとしても残り1億2633万人がHADESを手にしていないことになる。勿体無い。残り全員にHADESを配るとして、アルバムは会場頒布価格1500円だったので、1500*126330000=189495000000円が必要になる。0が多すぎていくらなのか分からん。とにかくいっぱい万円なので私にはとても払えない。人生を賭けて支払ってもいいのだが、どうせ追いかけられるなら借金取りではなく肌が赤い人がいい。むしろ今すぐ追いかけてきてほしい。お願いします。そういうわけで私はダイレクトマーケティングしかできない。各自大至急HADESを購入するべし。
肝心のアルバムの感想はとてもじゃないけど文字にできない。夏コミから超特急で帰宅してすぐに聴いて、とりあえず泣いた。
全部エモい。Introductionからエモい。冥界の扉が開きまくってるし赤いアイツがやって来ている。ついでにオランダ感がすごい。イントロを聴いた瞬間から涙が止まらなかった。私の聴きたかったHADESがここにある。その辺の話は長くなるので後述する。まずアルバムの話をすると、アルバム全体を通して聴くのがとても心地良い。静かで不穏なイントロから始まって、盛り上がって、夏が来て冬が来て、最後のUN1TEリミックスが締めの1曲としてとても素晴らしい。心が洗われる。で、一通り感動してからIntroductionに戻ると冥界の扉が開く。自動ドアなの?ってくらい勝手に開く。そのままHADESを聴く。次のRegulusもイントロからエモい。サイケデリックな音を聴いて、Gramが暴れて、リミックスでノック音と足音を堪能して、UN1TE聴いて、冥界の扉が開いて、……あれ……このアルバム無限に聴ける……? 気が付いたら夏コミから2週間が経ち、9月になっていた。
■
ちょっと話を戻すと、HADESのアナザーゴッド版は本当に「私の聴きたかったHAEDS」そのものだった。聴きたかったというよりも「見たかった」という方が正しいのかもしれない。ジャケットのイラストやTシャツや枕カバーもそうだし、かめりあ氏のリミックス*2もそうだけど、もしもHADESのムービーが違う内容だったら、全く違うものになっていたはずなのだ。でも、そうはならなかった。HADESが弐寺の曲だからだ。インパクトのあるムービーと、ユーザーが夢中になる譜面と、曲を遊ぶまでのかっこいい演出と一緒にHADESはここまで来た。アルバムのHADESも間接的ではあるけれど、ゲーム制作陣と作曲陣の夢の合作と言えるんじゃないだろうか? 曲とゲームの一体感、それこそ私がHADESに夢中になっている最大の理由だ。今回のアルバムはまさに理想を体現した作品だった。私の追いかけてきたHADESのすべてが詰まっていた。これがHADESだ。HADESを聴くとHADESの音がする。これ以上幸せなことはない。
そう。HADESを聴くとHADESの音がする。当たり前のことなのかもしれないけど、色んな出来事の積み重ねでHADESはHADESの音が鳴るわけで、数分の中に沢山の人の力とか人生とかが詰まっている。音ゲーマーは1クレジット100円ちょっと支払えば色んな曲と気軽に出会えるけれど、音楽って本当は1曲あたりの重みがすごいはずなのだ。HADESだって、世に生み出されるまでにどれだけの苦労があっただろう? 私がHADESに辿り着くまでにどれだけの偶然があっただろう? 私は私でしかないので自分の過去を辿ることしか出来ないが、詰まるところ私の人生のあらゆるポイントにHADESと出会うきっかけが散りばめられていたのだと思う。音楽を好きになったのも、音ゲーを教えてくれた友人と出会えたのも、ミリオンゴッド*3のタイトルを覚えていたのも、クラブに通うようになったのも、全部今日この日のためにあったのかもしれない。そう思うくらい全部つながっている。ただ、「生まれ変わってもまた好きになる」なんて漫画のような表現はできない。数え切れない偶然の積み重ねの上で出会ったのだ、生まれ変わってしまったら絶対に出会えない。色んなハードルを乗り越えて、今こうしてHADESを好きになることができて、本当に良かった。
■
で、イベントだ。新譜、夏コミ後のタノシー、何も起きないはずがなく。先述したとおり、タノシーWの1日目である。RED。赤い。ジングルがエモい。演出がエモい。周りにHADESのTシャツを着ている人がたくさんいた。エモい。
HADESのアナザーゴッド版はとてもとても箱映えする鳴り方をしていた。改装後のWOMBはハードな音がより良く映えるようになった気がする。真面目な感想を書いてるように見えるけど、実際は理性ドゥルドゥル大流出、マジ無理しんどいエモくて尊いって状態でそんなこと1ミリも考えていない。でもアルバムを聴き込んだおかげでカメラを構えるくらいの余裕は作ることができた。念願叶ってやっと箱で流れるHADESの動画撮影に成功した。撮影に行ってるわけじゃないんだけど、猛烈に嬉しい。おめでとう自分。
しかもVJがまさかの実写版、Jingleの素材と一緒に実写版、これでもかというくらいRED、廊下地帯も赤くて、いよいよ冥界入りしてしまった感がすごかった。
いつものアンセム曲と新曲と、なんだかMNKの足跡を辿るようなセットに感じてとても楽しかったし嬉しかった。体力残ってたら2日目も行きたかったけど、こればかりは仕方ない。かめりあ氏のリミックスは別の現場で狙いたい。
とても素晴らしいイベントだった。余韻が抜けない。冒頭にも書いたけれど、現場の雰囲気というのは本当に楽しいし、現場に集まってきた熱意のある人達に巻き込まれることで新しい感動が得られたりする。クラブはいい場所だ。行くまでのハードルは高いし、行ってみるまで楽しいかどうか分からない。でも、行かなければ楽しさも後悔も味わえない。行こうか行かないか悩んでいる人がいれば是非、一歩踏み出してみてほしい。
■
嬉しいことといえばもう一つ、前の記事を書いてから度々感想をいただく機会に恵まれた。よく作家には感想を送ったほうが良いという意見を見るけど、本当にその通りだと思う。生きる意欲がメチャクチャ湧き上がる。拙い文章でも書いてよかった。
読んだ人が一瞬でもHADESのことを考えてくれるきっかけになれたなら嬉しいし、ゲーセンで遊んだりサントラ買ったりアルバム買ったりしてくれたらもっと嬉しい。私はそれを後ろから眺めてニチャニチャ笑っていたい。
皆さんも好きなものを好きなように語って、健康になろう。
HADESの話をする
好きなものを好きなだけ記事にする流れに乗って、私は人生を豊かにしてくれた曲の話をする。音楽ゲーム、いわゆる「音ゲー」に収録されている曲の話だ。
ある程度音ゲーに詳しくない人にも分かるように書いたつもりだが、人生の半分くらい音ゲーで生きてる人間の書くことなので信用してはいけない。
■HADESは総合芸術だ
HADESという曲があって、簡潔に表現するなら私はこの曲が好きだ。全人類に聴いて欲しいし、見て欲しい。音楽なのに「見る」とはどういうことか? この曲は、曲だけでは構成されていない。どういうことかというと、beatmaniaIIDXという音楽ゲーム(以下、弐寺…にでらと読む)の曲なので、ゲームならではの要素……曲と、曲に合わせてボタンを叩くための譜面と、曲に合わせたムービーがセットで存在する。HADESに用意されたこの1セットが非常に素晴らしく、私の心を打った。実際のゲーム画面はYoutubeとかにたくさんあるので、是非見てみてほしい。有志によるプレー動画をいくつか紹介する。
※Youtubeの規約に従って引用していますが、問題があればご指摘ください。
動画を見ていただくと、弐寺の曲というのは
- 曲
- 譜面
- ムービー
の3点セットであることが分かると思う。まずはそれぞれの要素のおすすめポイントを紹介したい。
まず曲。
私にとっては待ちに待ったMassive New Krew(以下、MNK)の新曲で、弐寺初収録の記念すべき曲であった。彼らのクールなサウンドは各自いろんな媒体で確認して欲しいが、とりあえず最新の新譜2種もたいへん良かったので今すぐ買って(ダイマ)。
MNKは以前からCDのリリースやクラブイベントを通じて好きになっていたユニットだ。他の音ゲーにも沢山曲提供をしていて、いつか弐寺に来るのでは……という期待もあった。ので、「イベントを進めるとMNKの曲が出てくる」という情報を聞いた日の喜びようといったらなかった。しかもジャンルはハードスタイルだ!
そう、HADESは「ハードスタイル」というジャンルの曲である。ハードスタイルとは最強の音楽である。ハードスタイラー(ハードスタイルが好きな人たちのこと)はだいたい「最強」って言う。気になったらYoutubeとかでHARDSTYLEと入力して検索してほしい。何とかかんとかズ(ズの部分はだいたいZと表記する)みたいなアーティスト名の坊主スタイル男が力強い背中でDJしてる動画がいっぱい出てくる。最強だ。オランダとかが本場だが、国内にもアツいハードスタイラーが沢山いて、日夜かっこいい曲を生み出したり最強のDJをしたりしている。みんなかっこいいので自分の目と耳で確かめてほしい。
前置きが長くなったが、つまるところHADESも最強の音楽である。音楽用語に疎いながらも精一杯説明すると、強いキック、何かかっこいい音、そこにゲームを意識した畳み掛けるような音がドコドコ入ってくる。クラブで聴くような曲とは少し違った方向の、音ゲー特有の曲調に仕上がっているわけだ。最強と最強が合体して最強に見える。
ちなみに、弐寺には過去にもジャンルがハードスタイルと表記されている曲がいくつか収録されている。制作時期の流行りや作り手の個性が反映されていてどの曲も素晴らしいので要チェックだ。その辺については、約4年前の記事だが下記の記事が詳しい。
アンセム好き — 日本人向け anubasu-anubasuのHardstyle紹介 Vol.1 オススメ編
そして譜面。
弐寺には2つのモード、SPとDPというスタイルが用意されており、1曲につき大体6種類くらい譜面がある(先に紹介したプレー動画はSPとDPの一番難しいやつ)。私は幸いにもHADESに用意されたすべての譜面を遊ぶことができた。この譜面がどれも良い。演奏感がある。
弐寺にはキー音というものがあり、ボタンを押すと曲を構成する音の一部が鳴る。HADESは、鍵盤型のボタンを叩くとゴインゴイン鳴って、スクラッチを触るとプェープェー鳴る。ゲーセンで遊んでいれば、曲に加えて鍵盤を叩くパチパチという音が小気味よく混ざってくる。足元の台を通じて振動も伝わってくる。この一体感は、実際にプレーしないと伝わりにくいと思う。曲を遊び始めた瞬間から、プレイヤーと曲の二人三脚が始まるといえばいいのだろうか。プレイヤーがタイミングを誤れば音がずれてしまうけれど、頑張れば曲が完成していく。曲と一緒に遊んでいることの、一体感と達成感。音ゲーの醍醐味だ。
特にHADESは、譜面に緩急がある。曲が盛り上がるところではオブジェがガッツリ降ってくるし、静かになるところではオブジェも控えめになる。この緩急の付け方が絶妙だ。それと、難易度の割り当て方もちょうどいい。初心者から上級者まで遊べる譜面が割り当てられているから、色んな腕前の人におすすめできる。
そしてムービー。
ムービーが。とにかく。すごい。衝撃だった。これまで見てきた弐寺の曲の、どのムービーとも違った。すげー動くし怖い。おっさんが怯えるのもよくわかる。唐突なボクシング。なんか宇宙。女子高生。ノック。夢オチ? じゃない? なんだこれ!?
最初は怖かった。でも曲が好きだから、繰り返し見た。だんだん面白く感じて来て、もっとたくさん見たくなった。ゲームで遊ぶ時はムービーまで見る余裕がないので、他の人のプレー動画を一時停止しながら見るようになった。そして世界観の考察とか始めて、そこから沼だった。各地の悪魔の資料とか読み漁ったり、ときメモのバグ動画とか見たり、あの廊下のどこかの部屋に住みたくて物件情報とか見たりした。起きてる間はずっと二人(?)のことを考えていた。場所もコロコロ変わるし、赤い人は年齢性別等身すべてがコロコロ変わる。女子高生が可愛い。だが赤い。顔も怖い。それが何だ? よく見たら可愛くない? ていうか距離近くない? もしかして仲良い? これ茶番? 夢? 現実??? とにかく言い尽くせない魅力があって、私のスマホのスクリーンショットフォルダは潤うばかりだった。
このムービーの凄いところは音ハメがきっちりしているところだ。アニメのOPのように音楽に合わせてキャラクターが動く。アニメと違うのはキャラクターたちが音楽から生まれているところだ。下記公式サイトの制作者コメントを参照してほしい。
ドアノックも、宇宙旅行も、回る人も、曲由来の成分が動画担当の人のフィルターを通して2分間に凝縮されたということである。なんという感性だろう。
弐寺というコンテンツの面白さがここに詰まっていると思った。曲から、譜面とムービーが生まれてきて、1つのかたまりとしてプレイヤーに提供される。なんという合作だろう。弐寺という音ゲーでなければ実現し得なかった、1つの総合芸術。HADESは芸術なのだ。
■HADESはメンタルに効く
一つ個人的な話をする。この曲がゲームに実装されたのは年末の忙しくなり始めてきた時期で、私も非常に忙しい毎日を送っていた。誰よりも早く出社して誰よりも遅く帰る。しかも客先の古いビルに軟禁状態で、設備も悪ければ人間関係も険悪だった。運悪く長丁場になってしまい、半年ほどそんな状態にあった。周囲はみんな疲弊しきっていて、とても「つらい」と言える状況ではない。診断を貰ったわけじゃないけど、明らかに鬱の兆候が出ていた。毎日どうやって死ぬか考えながらの仕事。ブラックコーヒーと一緒に愚痴を飲み込む日々。
それでも、嫌だと思っていたこと一つ一つをHADESが緩和してくれた。
通勤ラッシュの中で聴くハードスタイルはやっばり最強だった。満員電車の悶々とした雰囲気はハードスタイルのキックが蹴散らしてくれた。強い音を聴くと、自然と強い気持ちになるのだ。当時HADESの音源は発売されていなかったので、とにかく色んなハードスタイルを漁っては狂ったように聞いていた。Youtubeの閲覧履歴が坊主頭の屈強な男たちで埋まった。
HADESをもっと聴きたかったけどゲーセンに行く時間がなく、動画サイトでムービーを観察する日々が続いた。毎日見ていると、ムービーのおじさんに親近感が湧いてきた。疲れているような、悩みのあるような。げっそりしたおじさんの雰囲気に自分を重ねていたのかもしれない。あの人も毎日追い詰められて、疲れているのかな? 悪い夢を見て、上手く寝付けなかったりしているのかな? もしかして、私の気持ちを分かってくれるのかな…? 画面の中の彼は、私のつらい気持ちを本当に分かち合ってくれる貴重な存在となっていた。
極めつけが、客先の古いビル。節電対策で照明の数を減らされた暗い廊下は、当初は歩くだけで気が滅入る場所だった。夜遅くなると静まりかえって余計に怖かったし、そんな客先に通うのが苦痛だった。でも、似ていたのだ。その廊下が、HADESのムービーに出てくる謎の廊下に。暗くて、真っ直ぐで、ドアがあって、何か出てきそうな雰囲気。ロケ地か? と疑いたくなるくらい似ている。それに気付いた日から私の出勤ライフは劇的に変わった。クソ長い打ち合わせの後でも、あの廊下を通るとテンションが上がりまくった。自然と笑顔になって、先輩とすれ違った時に「何かあったの?」と変に心配されたりもした。人が見てないタイミングを見計らってスキップしながら通ったりした。今思うと完全に不審者だったけど、つらい気持ちはもりもり減っていった。
気持ちが和らいでも死にたくなる日はあった。でも「死んだらあの赤い人に会える? 実質推しの握手会では!?」とプラスに考えられるようになっていた。今思うと完全にダメなタイプのポジティブシンキングだったけど、気がついたら苦しかったプロジェクトから脱出していたし、ゲーセンでまたHADESの人たちと会える時間ができていた。
HADESと出会っていなかったら、いま元気にゲーセンへ通っていられなかったかもしれない。そう思うと感謝しかない。
(※メンタルがつらくなったらおとなしく病院へ行こう!)
ついでに仕事以外でも、HADESのおかげでいろんな苦手を克服していた。
私はホラー系コンテンツが苦手で、ホラー映画の予告をチラ見しただけでその日のうちに悪夢を見るくらいには弱かった。現実世界の暗い場所とかも、一人で居るのがとても怖い。それでも、今では暗いところには赤い人がいるんじゃないかと期待して、以前ほど怖く感じなくなった。
そもそも目力の強い怖いキャラ(青鬼とかねこですよろしくお願いしますとか)はとてもとても苦手だったけど、HADESの人はへっちゃらになった。なお、おじさんはもともと好きだったので更に好きになった。オタクの守備範囲はこうやって広がっていくのだ。業が深い。
ゲームの苦手もちょっとだけ克服した。HADESの譜面は苦手な要素がいっぱいだったけど、繰り返し遊んでいたら、苦手譜面と向き合えるようになった。そしてHADES以外にも、難しい曲を少しずつクリアできるようになっていった。HADESの難所に比べたら楽ちんでは? と思いながら挑戦すると、案外叩けてしまうのだ。HADESマジック。クリアランプが増えると音ゲーのモチベーションが上がる。モチベーションが上がるとプレー回数が増えて上手くなってる。HADESがもっと楽しく演奏できるようになる。するともっと難しい曲ができるようになる。楽しさと上達の輪廻。ここ数年伸び悩んでいた私には特に効いた。オタクは単純なもので、ゲームが楽しいと日常生活が明るく輝いて見える。仕事で蓄えた欝はどこへやら、今では楽しくゲーセンへ通う日々だ。
■HADESの供給はフロアにある
いいところづくめのHADESだけど、ひとつだけ難点があった。それは時間だ。曲とムービーと譜面による独特の世界は、2分ちょっとしか味わえない。それは音ゲー収録の勲章であり、宿命だった。
もちろん、いろんな都合を攻略できれば、曲だけは長いバージョンを聴ける可能性がある。でもムービーは長くならない。ソシャゲみたいに、担当イラストレーターさんが非公式らくがきをSNSに投下する、なんてこともありえない界隈だ。オタク的に言えば、今後の供給は絶望的。だがそんなことは関係ない。私は知っている、供給の薄い沼の底の味を。覚悟はできている。あの2分の世界があれば生きていける自信があった。
だが、その絶望は、なぜか良い意味で裏切られ続けた。私は何度も貴重な機会に出会うことが出来たのである。
今でも昨日のことのように思い出せる、2017年3月のEDP。ざっくり言えばライブだ。
鬱真っ盛りの中で参加したイベント、メインフロアがPrim登場で盛り上がる中の、セカンドフロア。
流れた。HADESが。
流した。曲を作った御本人たちが。
赤かった。フロア中のオタク棒が。
円盤には収録されなかったけど凄く濃厚な瞬間だった。キックを大音量で浴びる。肺がキックと同じリズムで震える。めいいっぱいフロアに詰まった客から歓声が挙がる。その中で私一人だけ別の空間に飛ばされたみたいだった。イメージ的には茶室である。HADESという概念と、畳1枚隔ててオタク棒を持ち正座する私。音楽を聴くはずの空間で何故か感じる静寂。時は止まっていた。やっと会えた。感動の瞬間。
残念ながら円盤は売り切れてしまっているので、せめて販促PVで雰囲気だけでも吸ってほしい。再販まだですか? 布教用にもう1枚欲しい。
もちろん私の参加していない他のイベントでもフロアにHADESが流れた日がたくさんあった。感想ツイートを見かけるたびに我が事のように嬉しかった。ちょっと悔しかったけど。私以外の人が楽しくHADESを聴いてるという事実が嬉しい。いいぞいいぞ~~~もっと聴いてハマってくれ。だって今なら、サントラも手に入るのだから!
■サントラ購入を迷ってはいけない
各地のフロアで供給が続く中、満を持して登場したのがサントラである。文字通り弐寺の音源を収録したCD、サウンドトラックだ。まだ手に入れていない人が居たら、下記のページから速やかに注文して欲しい。念の為書いておくと、下記のリンクをクリックしても私には1円も入ってこない。安心して散財して欲しい。
HADESの音源は長らく発売されて来なかった。ゲームに実装されてから1年4ヶ月ほど待った。長かった。それが先日、2018年3月7日、遂に発売されて自宅に届いた。音源と一緒に、さらなる供給の爆弾を抱えて。
サントラは、まずは聴いてほしい。聴けば分かる。今回は弐寺24作品目のSINOBUZのサントラ(HADESはこっちに収録されている)と25作品目のCANNON BALLERSのサントラが合体して、CD4枚組という豪華仕様だ。しかもお値段据え置き。
「今どきCDなの? デジタル音源で良くない?」と思う方も居ることだろう。だが、CDにはブックレットとアートワークス集がついてくる。更に初回特典として、ポスターとゲーム内で使えるクプロというアイテムがついてくる。今回、HADESの民にとって一番重要なのは、アートワークス集とクプロである。決してデジタルリリースでは味わえないコンテンツだ。
クプロは、弐寺でのアバターである。サントラの初回特典にはだいたい複数のクプロが付いてくるのが定番だ。私は特に期待もせず「HADESのクプロも付いてきたら嬉しいのにな~」とのんびり構えていたのだがフォロワーさんから
「ついてきてますよ」
とのリプライとともに送られてきたスクリーンショット。立ち並ぶデフォルメキャラたち。その一角が、赤い……?
後頭部を殴られたような衝撃。デスノートに名前を書かれたらこんな感じなのかもしれないと思った。動悸、息切れ、視界がふらつく中、必死で公式サイトを確認した。デフォルメキャラの中にやっぱり赤い人がいる。枕を持ってる。碓かに憑いてきている。な、なぜ!? 可愛いデフォルメキャラの中になぜ、リアル画風の赤い人を入れた!? そしてまさかの名前が判明!?!? ハデ……夢……くん……?!!? あなたはハデ夢くんとおっしゃるのか!??!? ついに、ついにあの世界感の公式設定が出た!!!!!
あまりのショックに息を引き取りそうになった。不整脈と動悸が酷い。だって今まで好きなキャラたちの名前すら知らないまま1年以上過ごしてきたのだ。断食中に突然フレンチのフルコースを流し込まれたら、窒息するに決まってる。 心臓病家系のオタクは供給ですぐ死ぬ可能性があるということを学んだ。HADESからの学びは多い。
そんなこんなでサントラが届いた後、早速特典クプロをゲットした。感動の対面。ムービーより顔が怖いのでは? と思えるくらいリアル、そして可愛い(重要)。だが見た目だけではない。クプロは、プレイヤーのアバターだ。ゲーム中でプレイヤーの代わりに動くのだ。怒ったり、笑ったり、泣いたりするのだ。ムービーでは笑顔一辺倒だった赤い人が、感情の赴くまま表情を変えてくれる。実際にゲーセンで見た時の、感動といったら。ついに推しがムービー以外の場所で動いた。感激しすぎて変な声が出ても、今作は森一丁さんの元気な声がかき消してくれるから安心だ。ありがとう美声のプロ。私のプレー次第で泣いたり笑ったりする赤い人、いや、ハデ夢くんを存分に眺めることが出来る。自分が頑張った時に一緒に喜んでくれる彼を見ていると元気が出る。彼の笑顔をたくさん見るためにも、もっと音ゲーを上手くならなければと誓った。
そしてサントラ付属のアートワークス。微妙にネタバレになってしまうけど、まさかの、HADESの、描き下ろしイラストが、来た。もしかしたら最後になるかもしれない公式からの供給なので是非手に入れて見てほしい。可愛い女の子とかカッコいい男の子とか載ってる中であのページだけ濃度が違う。すごい。そして制作陣からもファンからも愛されているのを感じて泣きそうになった。
説明を省いていたが、HADESのムービーを担当されている方はHADES以外のムービーも描いている。正直、描き下ろしはそっちの曲だと思った。そちらはそちらで素晴らしい曲とムービーと譜面なのでチェックして欲しい。「冬椿」で検索だ。冬椿は美男美女の切ないハートフルストーリーだ。こちらも非常に人気が高い。
でも、アートワークスは赤い人とおじさんのめくるめく追いかけっこの方が採用されていたのだ。ファンの反響あってのことだろうか。HADESのことが好きなみんな、ありがとう。そして神様ありがとう。
そんなわけで今回のサントラは隙がない。ロング枠もすばらしい。迷ったら買いだ。サントラは絶版になりやすい。後悔先に立たずというやつだ。
■HADESを聴こう、見よう、遊ぼう
とにもかくにも、私が言いたいことは一つだけだ。
HADESは、いいぞ。
聴いてよし、見てよし、遊んでよし。2分の世界の音楽でこれだけ人生が楽しくなるなんて思わなかった。色んな人にこの感覚を味わってもらいたい。
私はHADESを推しているけれど、どんな曲でもいいので、あなたの好きな2分の総合芸術を見つけてみて欲しい。音ゲーは楽しい。
それと、HADESに関わるすべての皆様には本当に感謝してもしきれません。今後も期待してお待ち申し上げております。
2019/7/27追記:一部リンクが切れていたのを修正。
2020/9/23追記:一部削除して再公開。